2010年08月17日

家出少女 新入社員直美の陵辱…6

部屋を出た僕はまず1Fの社員通用口へ行き、脇の管理人室でテレビを見ていた中年男に声をかけた。
「すみません!」
「ん?」
中年男は気だるそうにこちらを向いた。
「数分前くらいに女性は通りませんでしたか?」
「さあ?」
やる気なさそうに首を傾げる彼を見て瞬間的に頭に血が上る。
「おいっ!『さあ?』って何だ!ちゃんと仕事しろよ!」
そう言うと、中年男はニヤついた笑いを浮かべた。
「冗談ですよ。そんなに怒らなくてもいいじゃないですか」
「で、通ったのか?」
「えぇ。美人さんが1人ね。で、彼女が・・」
僕は管理人の言葉を最後まで聞くことなく、ビルを飛び出した。

今は12月。もちろん寒い。上着を着てこなかった自分を呪いながら、あてもなく探し回った。白い息を吐きながら、オフィス街をひたすら走る。就業時間中なのでかなり静かだ。この辺はオフィスビルばかりで住宅もないし、学校もスーパーもない。たまに外回りらしきサラリーマンとすれ違う程度。これならすぐに見つけられそうなものだが、結局彼女の姿を目にすることはなかった。
「ちっ」
無意識に舌打ちが出る。せっかくのチャンスだったのに。僕は片側3車線の大通り沿いを歩きながら、半ばヤケクソになって煙草を咥えた。そして火を点けた瞬間、大通りの向こう側の公園らしき敷地の中に『彼女』を見つけた。

僕は煙草を投げ捨て踏みつけた勢いで、横断歩道のある交差点まで全力疾走した。青信号が点滅している。迷うことなく飛び出し、横断歩道を駆け抜けた。息が切れて心臓がバクバクと悲鳴を上げている。運動不足のせいで足がもつれそうになる。それでも走り続けた。

どんな顔で彼女の前に現れたのか分からない。きっと酷い顔をしていたと思う。とにかく追いついた。と言うか、小さな公園のベンチに座っていた彼女の元へ『辿り着いた』。
「え?田中さん?」
驚きの表情で直美は僕を凝視していた。呼吸が整わず、僕は思わず苦笑する。
「あの、大丈夫ですか?」
「はぁ・・はぁ・大丈夫だよ」
これじゃあ、立場が逆だ。僕は気を取り直し、彼女の隣に腰を下ろした。
「ふぅ・・やっと落ち着いたよ」
その言葉を最後に急に気まずい雰囲気になってしまった。彼女を探し当てたのは良いものの、その後の展開を全く考えていなかった。さっきまで、『これはチャンスなんだ!』と自分に言い聞かせていたのが信じられないくらいだ。
「あのさ、進藤さんが心配してたんで、探しに来たんだよ」
「そう・・・ですか」
急に寒気を感じ、僕はクシャミをした。そんな僕を見て直美は微笑んだ。2人とも上着を着ていない。
「寒いですね」
「そうだね。ちょっと喫茶店でも入ろうか」
2人は同時に立ち上がった。

良く見ると彼女は目を腫らしていた。きっと泣いていたのだろう。こうして向かいに座ると、彼女の体の線の細さに驚く。
「斉藤は本当にゴミみたいな奴だよな」
話題がなかったので、とりあえず口にしてみた。そんな斉藤を止めることが出来ない自分の情けなさ。
「大丈夫。もう慣れました」
目の前に置かれたコーヒーカップをじっと見つめ、直美が落ち着いた声で答える。
「今日、見てましたよね?」
「え?」
「お昼のこと」
カッと顔が熱くなる。昼休みの尾行はバレてたのか。どうやって知られたんだろう。しかし、ここで変に言い訳しても仕方がない。素直に認めることにした。
「うん。見てた」
「酷いです」
「ごめん」
「あの時みたいに助けて欲しかったな」
「あの時?」
「池田さんの時」
「ああ、あの時か」
週末の誰もいないオフィスで親友の池田が彼女の胸に顔を埋めていて・・。あの時、僕は咄嗟の機転で携帯電話を使って彼女を助けたのだ。あれがすべてのきっかけだったのかもしれない。
「あのさ、あの男は誰なの?お金借りてるの?」
「ごめんなさい」
あっけなく拒絶。彼女の真相に迫るならこのタイミングしかなかった。僕は彼女の真実へ永遠に『辿り着けない』と悟った。
「そっか」
「・・・あの、田中さん・・」
「ん?」
「私、会社辞めます」
今まで辞めなかったのが不思議なくらいだ。
「寂しくなるな」
「そう言ってもらえるの、田中さんだけです」
入社以来、初めて見た彼女の偽りのない笑顔だった。

結局、何も聞けなかった。昼休みの男のこと、セクハラが始まった原因。今まで辞めずにセクハラに耐え続けた理由。何もかも分からなかった。僕達は黙りこくって喫茶店を出た。
「とりあえず、戻ろうか」
直美は首を振った。
「もう少しだけ一緒にいたいです」
「僕なんかと一緒にいてもつまらないよ」
「田中さんって・・・カッコいい」
冴えないサラリーマンの胸に社内一の美女が顔を埋めた。ふんわりと甘い香りが鼻をくすぐり、高品質の抱き枕を抱えたかのような心地よさ。目の前の大通りを車が忙しなく通り過ぎてゆく。こんなことはもう一生ないだろうなと思いつつ、僕は彼女の背中を優しく撫で続けた。


翌日から直美は出社しなくなった。進藤は部内に彼女の辞職の件を通知した。さすがの斉藤達も決まり悪そうに身を縮め、いつ自分達がセクハラで訴えられるか戦々恐々としていた。池田は僕からいろいろと聞き出そうとしたが、僕は「探したけど見つからなかったんだよ」と答えただけだった。

新入社員直美が辞職して、部内は活気を失った。精神的にも業務的にも彼女の存在は大きかった。雑務を一身に担っていた彼女が抜け、その分の穴埋めが大変だった。1週間後に彼女の代わりの女性が配属されたが、直美とは比べようもない人だった。

半年後。昼休みに駅地下を歩いていると、直美らしき女性が遠くを歩いていた。後ろ姿では判断できなかったが、美脚、歩き方、髪型すべてが彼女であることを物語っていた。僕は早歩きで彼女に近づいていった。何を期待していたのか分からないが、とにかく彼女の元へ『辿り着きたかった』。息を切らして距離を縮め、そしてもう少しという所で、彼女は急に立ち止まった。ハッと顔を上げると、そこにはホスト風の長身の男がいた。彼女はその男に抱きつきてキスをした後、改札口へ向かって2人並んで歩き出した。僕はその光景を絶望的な眼差しで見送った。

と、彼女がこちらを振り返った。

・・・全くの別人だった。

一気に全身の力が抜けた。そうだよな、こんなところで歩いているわけがない。それにあんな男とキスするわけがない。僕は無性に嬉しくなってその勢いで駅地下のラーメン屋へ寄った。以前、直美を尾行した帰りに寄ったラーメン屋だった。妙なテンションで割り箸を手にしたが、やっぱりその店の味噌ラーメンは不味かった。

終わり。

ご愛読ありがとうございました。
posted by 家出少女サオリ at 11:07| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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